先日、友人ご夫婦とともに映画の上映会に参加しました。
作品は『からむしのこえ』(監督:分藤大翼)
2019年に制作された作品です。
この作品は、福島県昭和村で数百年にわたって営まれてきた「からむし」という植物から「糸を紡ぎ」「布を織る」という暮らしを映像に収めたドキュメンタリー作品です。
昭和村は奥会津にある小さな村。
そこで栽培される「からむし」という植物。
気の遠くなるような手作業から生み出される繊維は非常に質が高く、越後上布や小千谷縮の原料となるそうです。
印象的だったのは、1年を通じて自分たちの暮らしに沿った方法ではなく、からむしの成長に合わせて作業をすすめるということ。からむしに自分たちの暮らしを合わせているというのです。
だから質の良いからむしが育つのだそうです。
「からむしの声を聞いてやれ」という言葉が昭和村にはあるそうです。
からむしの成長に寄り添いながら生きてきた先人たちの言葉。
自分たちがからむしを育てる、というよりもその成長過程を「耳を澄ますように」見守ってきたのだと思うのです。
自然をコントロールし都合よく形を変えようとする現代人には失われつつある考え方、それがこの昭和村には脈々と受け継がれている。
豊かではあるけれど厳しい自然の中で育まれてきたこの精神と技術が現代に伝わっている様は、まるで草から糸、糸から布へと紡ぎ続けてきた先人たちの技術・生き方そのもののように感じます。
経験豊富な人々が若者に寄り添いつつも時に厳しく教え、知恵を共有する姿こそが「伝承」なのだ、と強く思いました。
からむしを育て、糸を紡ぎ、織り布に仕上げる。
文章にするとたった1行ですが、そこには何年もの月日と途方もない手間が繰り返されています。
根気だけではとうていできません。
そこには愛情がないと継続することは不可能です。
愛情とは、先人たちへの感謝、自然への敬意、仲間への思いやりという心の有り様だと私は思います。
「からむし」という植物によって人々の営みが形成され、その中に暮らしがある。さまざまな日常や非日常があるなかで、声をかけることも大事だけど、声を聞く、耳を澄ますことの大切さを「からむし」は教えてくれているのではないでしょうか。
作品の中で若い女性が根気よく作業をしながら前進するたくましい言葉を聞き、心が温かくなる思いがしました。
人間国宝の平良敏子さんが復刻・伝承されている「喜如嘉の芭蕉布」を思い出します。
強い繊維質を持つがゆえに製造工程が多い芭蕉布。
からむし同様、その土地で育つ植物から繊維を取り出し糸にして織りへと導く姿は同じ。
土地を愛し、自然を愛し、伝統を受け継ぐ平良さんの姿が私の大きな励みとなっています。
私の織物はそれらと比べることはできませんが、この映画を見て織り文化の持つ奥深さに改めて気付かされ、心に残る一日となりました。
「植物の声を聞く」
良い言葉ですね。
私も糸や布の声を聞きつつ一歩一歩前へ進みたいと思います。
『からむしのこえ』
いい映画に出会えました。
そして、上映会に誘っていただいた友人ご夫妻に心から感謝。(車で送迎までしていただいて!)
最後になりましたが、『からむしのこえ』を映像に収め、私たちに広く伝えてくれるこの作品の意義は大きく、分藤大翼監督は素晴らしいお仕事をなさったと思います。
今後のさらなるご活躍に期待したいと思います。
いろいろな出会い。
ご縁に感謝。
ありがとう。
『からむしのこえ』公式サイト