日本各地が大雪に見舞われた2023年2月、私の住む滋賀県も例外ではありませんでした。一度にたくさんの雪が積もるのでいつもより雪かきが大変な冬でした。
しかし、季節はかならずめぐります。
3月の声が聞こえてくる時期になると極寒の中にも春の気配。
凍てつく土の中に残された種は感じているでしょう。
お天気の周期的な変化、雲の動きや風の薫、季節は目に見えないところからゆっくりと動き出しています。
そんな早春に東日本大震災はおきました。
早いものであれから12年が経とうとしています。
大きな被害をこうむった岩手県大槌町。
三陸海岸を見おろす丘の上に電話線のつながっていない電話ボックスがあります。
「風の電話」
わたしは以前、新聞の記事でその存在を知りました。
海岸を見おろすその場所を気に入り、移住したガーデンデザイナーの佐々木格(いたる)さん。震災の前年に仲の良かったいとこが亡くなったことをきっかけにダイヤル式の黒電話を設置。廃業するお店から電話ボックスを譲り受けました。
「風の電話」と呼ばれる線のつながっていないその電話は、佐々木さんが亡きいとこともう一度話をしたいとの思いから始めたそうです。
2011年3月11日、東日本大震災。眼前の海岸を襲った津波を目の当たりにした佐々木さんは一人で2000坪の庭園を整備し、喪失感を抱えた人が亡き人に思いを伝られるよう「 ベルガーディア鯨山 として開放しました。
素敵な方ですね。
この電話の存在を知った頃、私は夫をなくして間もなかったこともありこんな場所があれば行ってみたいと思いました。
植栽が整えられた庭。
広い空間に置かれた電話ボックス。
中には「風の電話」とノートが1冊。
電話の横には一編の詩。
風の電話は心で話します 静かに目を閉じ 耳を澄ましてください 風の音が又は浪の音が 或いは小鳥のさえずりが聞こえたなら あなたの想いを伝えて下さい
亡くなった従兄弟が書いたそうです。
受話器を持ち、亡き人を思い語りかければ心がつながるように感じるでしょう。
電話ボックスという閉ざされた空間です。人目をはばからず涙したり、思いの丈を話せるのだと思います。
「風の電話は心で話す」 とても優しい言葉だと思います。
話すことで自分のリズムを取り戻し、少しづつ元気になり1歩づつ前に進むことができるようになるのでしょうね。
花は散ったあと、種を残します。
やがてそれが芽吹き、命を再生します。
人も同じ。
わたしは小さな庭で植物の香りや風に揺れる葉ずれの音を聞きながら座っていることがよくあります。
自分の心と向き合い静かに流れる穏やかな時間。
「風の電話があちらこちらにあればいいな」ふとそんなことを思います。
元気が失くなってしまったとき、たまにでいいから、いまは亡き人たちと会話をしたい。
自分のリズムを取り戻したい。
そうやって元気になり、一歩前へ進むことができる。
そんな場所になるのではないでしょうか。
わたしも広い土地があれば作ってみたいです。
とはいっても、佐々木さんのように一人では無理ですけれど…。
誰か手伝ってくれる人がいるだろうか?
そんなことを思いながら、このステキな新聞記事を大切にファイルしています。