森のなか、迷子になって・・・。

朝夕はすっかり冷える季節になりました。比良山系の山々も紅葉が始まっています。近江八景のひとつ「比良の暮雪」として雪景色が美しいことで知られる比良山系ですが紅葉も美しいものです。遠くから山全体をのんびり眺めるのは趣がありますが、一歩山に入ってみるとその楽しみ方はずいぶん変わります。

森で迷子

いまから七年くらい前でしょうか、比良山に出かけときのことです。とても気持ちが良かったので森を散策していたんです。気持ちのいい空気と風に誘われ、おもむくままに歩いているうち道に迷ってしまいました。

森での出会い

もと来た道に戻るのはどうしたものかと困っていたところ、たまたま通りがかったご夫婦に道を教えていただき事なきを得た、ということがありました。お礼がてら話をしていたら突然「あなたボランティアに参加してみない?」奥さんに誘われたんです。

森でボランティア活動

以前から興味があったので、それをきっかけにボランティア活動をするようになりました。なかでも、子育て支援の活動には積極的に参加しました。

子育て支援にもさまざまな形がありますが、私が参加したのは「子どもたちに森の中を存分に楽しんでもらおう」というものでした。

森を楽しむ

森の中には本当にたくさんの楽しみがあります。一緒に御飯や豚汁を作ったりピザを焼いたりなどのキャンプはもちろん、鳥の巣箱づくりをはじめとする木工細工、川遊び、雪の日にはカマクラを作って雪合戦をしたり。

なかでも大盛り上がりなのは木を切り倒すこと。

森の整備をかねて行政から許可を得た木をチェーンソーで切込みを入れます。それを参加者全員でロープを引いて倒すんです。木との綱引きですね。大きな木が倒れる様子は迫力満点。子どもたちはめったに経験することのできない作業に興奮し、自分たちの力で大きな木を倒した喜びで大騒ぎです。山頂にまで届きそうな子どもたちの歓声が森にこだましました。

スーパー竹とんぼ

森での活動はさまざまありますが、特に力を入れたのが竹とんぼ教室。竹とんぼと言ってもむかしのそれとは違い滞空時間も長くよく飛びます。いまでは「スーパー竹とんぼ」と呼ばれているんです。全国大会や競技会が行われているくらい人気のスーパー竹とんぼ。見た目もカラフルで、羽の角度やバランスの調整がうまくいくと100m以上飛ばす人もいるそうです。

インストラクターに

よく飛ぶスーパー竹とんぼを作るには羽の角度調整や左右均等に削るなどの細かい作業が必要になってきます。そのため、それなりの訓練と経験が必要です。わたしは競技会に出場されている方に教えていただき、なんと小学生に教えることのできるインストラクターになったんです。そのおかげで、学校の授業や子供会のイベントに参加し、たくさんの子どもたちとふれあう機会に恵まれました。
もくもくと作業に没頭する子、家族や友達のことをたくさん話してくれる子、手先が器用な子、色使いが上手な子、いろいろな個性に出会える楽しい時間でした。

竹とんぼ作り

先日は子供会のイベントで子どもたちに竹とんぼ作りを教えてきました。参加してくれた児童は25人。8人のスタッフで作業をサポートします。
まずは材料となる竹をノコギリで切込みを入れ、ナイフで削る。竹とんぼ作りはとても根気のいる作業です。ノコギリ、ナイフ、サンドペーパー、ライターなどの道具を使用するため細心の注意が必要となりますが、普段こどもたちがめったに使うことのない道具での作業は良い経験になると思います。

完成

竹をナイフで削り形を整えたら、サンドペーパーで羽の部分を更に削ります。左右のバランスをとったり、ライターを使い竹を温めて羽の角度調整をするなど、子どもにとって難しい作業もありますが、励ましたりほめたりしながらひとつひとつ作業し一緒になってチェックします。「手がだるい〜」などと弱音をはいていた子も、色ぬりの作業となると途端に元気になるところは面白いですね。みんな、色ぬりは大好きなんです。思いおもいの色をマジックでぬっていきます。さあ、色ぬりが終わりました。といっても「やった、完成!」ではありませんよ。竹とんぼは『飛ばして完成』ですからね。

とびっきりの笑顔

今回わたしは片付け役をしていたので、子どもたちが飛ばす姿を見ることができませんでした。残念だなぁと思いつつ片付けをしていたら子どもたちがかけ寄ってきて「すっっごいとんだよ!!」とびっきりの笑顔が私のまわりに集まってきました。みんなうれしそうにスーパー竹とんぼの成果を報告してくれます。無事に役目を終えた安堵感と、子どもたちの笑顔がくれる充実感に包まれる、なんともいえない幸せな瞬間。いままでの苦労がむくわれると同時にたくさん元気をもらっている実感がわいてきます。

森のなか

森でのボランティア活動は大変ですがそれを上回る充実感があります。森での遊びを経験した子どもたちは、このあとどんな成長をしてゆくのか。想像するだけでワクワクしてきます。

もしあのとき、比良山で迷子になってあの出会いがなければ、この経験を得ることはできなかったでしょう。

人との出会いは本当に不思議なものですね。

あれからずいぶんと時間もたちました。この土地にも慣れたので、もう迷子になることはないでしょう。こんど出会うとしたら、それは迷子になったあなたかもしれませんね。